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自然番組づくりで大切にしていること2019年11月11日

自然番組の制作に携わってまもなく7年目を迎えるマキタです。
時々、「自然番組ってものすごい早朝に放送してるアレ?」と聞かれることがあるので、

●そもそも自然番組とは何か
●何を大切にしながら制作しているか

について書いてみることにします。
ちなみに「早朝に放送してるアレ」とは、番組や放送が終了してから次の番組が始まるまでの間に流れる穴埋め番組で『フィラー』といいます。

自然番組は、自然環境や生きものの生態を科学的に紹介するもので、学問の分野で言えば自然科学や生態学などにあたります。

ここ数年制作しているNHKの「ニッポンの里山」という番組では、日本各地の自然の力を借りて生きる人の暮らしと、そこで共生する身近な生きものを紹介しています。
制作にあたって気をつけている事は、
「常に疑問を持つこと」
「専門家にならないこと」
「実際に体験してみること」の3つです。

私の場合、全国津々浦々の暮らしを隈なくリサーチしてピン!ときた場所を取材先に選ぶのですが、その“ピン!”の根拠を「疑問に思うかどうか」に設定しています。最近の作品をベースにお話しすると・・・

1 シャガの花

京都府のとある山里では初夏、シャガという野花が一斉に咲く光景が見られます。その数なんと400万株以上。
これだけの数が自然に咲くこと自体謎なのですが、もっと謎だったのは、わずか3年前までこの花園の存在を誰も知らなかったということ。

「なんでこんなに沢山咲くの?」
「なんで誰も花が咲いているのを知らなかったの??」

こうした謎を解く上で大切にしているのが「専門家にならないこと」。
取材で一番の妨げになるのが先入観です。なので事前取材時には脳内をリセットして、完全なる素人になります。
先入観を捨てて話を聞いていると、取材相手の会話の中にひっかかる部分が必ず出てきます。そのひっかかりを逃さず取材していくと、大体の謎が解けるから不思議です。

2 シャガ

取材がある程度済んだら、分かりやすく伝えるための物語を書きます。
自然番組の物語づくりは難儀です。生きものは喋ってくれないし、風景もあまり動いてくれない。逆にどんな機材を使ってどんなカットを撮るかは自由なので、アイデアの見せどころでもあります。

3 トチノキ

物語を書き終えたらロケに出ますが、そこで大事にしているのは「実際に体験してみること」です。
京都のロケでも、撮影の合間を縫って森の手入れのお手伝いをしました。それはそれは広大な森で、立っているのもやっとの急斜面。里の人たちは皆さんご高齢。それでもこまめに手入れするのは、花が咲いた時の嬉しさや、沢山の人に見てもらいたいという想いの強さからでした。
その想いに触れることで、物語で強調すべき部分がどこなのか、どのようなナレーションでその想いを反映させるのかを考えます。

写真3 トチモチ お手伝いのごほうび・トチモチぜんざい

どんな番組なのか、少し伝わったでしょうか?
自然番組はドキュメンタリーです。
奇跡みたいな映像が撮れるのは稀で、泣きたくなるほど何も撮れないことも多いです。
急な嵐で木の葉が全部飛ばされたり、山が土砂で崩れたり、春なのに大雪が降ったり、なぜかロケハンまでは見られた生きものが全滅したり・・・
そんな抗いようのない自然と対峙するたび、

「何のためにこの番組を作っているんだろう?」

と絶望するのですが、番組をご覧になった方のうちの一人でもいいので、自然の綺麗さや人の心の美しさに感動してくれたら、それで充分かなとも思うわけです。
そんな初心に立ち返ることができるから、やっぱり、自然番組ってやめられないんですよね。

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