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「妄想力」2014年12月19日

突然ですが、質問です。
水族館の水槽に、イワシの大群を見たとして、どう、思いますか?
「美味しそう!」「気持ちよさそう」という人、多いでしょうか。
私はいつも「かわいそうに。あんなに群れて」と思い、きゅんとします。
きっと、大きな魚におびえているのです・・・
水槽の中なのに、大海原にいると錯覚して・・・。
魚だって、機械的に泳いでいるわけではありません。
じっと見ていると、心があるのでは・・・と思うこともあります。
それも、かなり、繊細な心が。
今回は、「妄想力」の話をしてみます。

水族館でよく見るイワシだんご

水族館でよく見るイワシだんご




現在、NHK総合「さわやか自然百景」という番組の、
お正月特番の制作まっただなかです。
日本各地の自然と、生きものたちの営みを見つめる番組。
生きものは喋らないので、おのずとナレーションが中心になります。
番組の長さは88分。長い。
生態や環境の話ばかり聞いていたら、飽きちゃいます。
しかも、見るのはお正月の朝。くつろぎの時間です。


そのため、くふうが必要です。
今回は、全体を4つの章にわけ、各々にテーマとなる生態を決めました。
さらに章の中でも、いくつかのバリエーション項目を展開します。
1つの項目につき、生きものの動きを観察し、
全体の流れを整理し、物語を仕立てます。
ざっくりと書きましたが、かなりの想像力と表現力を要しました。


たとえばです。「繁殖」をテーマにした章で、
今回、辛くも予選落ちした項目を挙げてみます。

流れの緩やかな清流を好む、トミヨという、ちょっと地味な魚がいます。
トミヨのオスは繁殖期、なわばりをかまえます。
オスは、水草をちぎって集め、メスを呼ぶための巣を作ります。


トミヨ。全長2~3センチほど

トミヨ。全長2~3センチほど




・・・で?って、思ったらだめ!アウト!試合終了です!!
ここで、感情移入できるかどうかが、第一のポイント。
器用だなー!健気だなー!と感動できないと、番組にはなりません。
そして再度、映像を見なおします。
すると、見えてくるんです。

出来るだけきれいな水草を選りすぐって、巣材にすること。
5ミリほどしかないヒレで、懸命に、巣をまんまるに整えること。
別のオスがやってくると、猛スピードで追い立てること。しかも必死の形相。

トミヨにとって、
命をつなぐことが一世一代の大仕事なのだと、伝わってくるのです。


バイカモ

バイカモ


さらに、トミヨが棲むところにはよく、バイカモという水草が生えています。
漢字だと、「梅花藻」。梅に似た、白い可憐な花を咲かせます。
ここで「キレイだなー」で終わらせないのが、第二のポイント。
水面に点々と咲く花・・・良い!ロマンチック!
ということで、最終的に、
「お花畑で健気な恋をする魚・トミヨ」で物語をつむぐことになる。
ここまでくるのに、先輩ディレクターのお知恵を、だいぶ拝借しています。


最大のポイントは、これを擬人化せず、シンプルに描くこと。
ストーリーはあくまで裏にあるもの、
伝えるべきは、生きものたちの営みです。
労い、手向け、さまざまな意図をナレーションの裏に隠します。
何かを面白く伝えるには、妄想力が欠かせません。
が、私にはまだまだ、むずかしいです。


こんど水族館に行ったら、想像してみてください。
「魚=食べもの(人目線)」ではなく、
「 =追い、追われるもの(魚目線)」で。
それぞれに個性があふれでて、命のドラマにわくわくしますよ!



今回のロケでは、沖縄の海やら、山奥の崖やら、色々行きました。
特に崖は、本当に楽しかった!さて、何しに崖へいったのか?
1月4日(日)あさ7時20分~ NHK総合で、ぜひ、ご覧ください!

沖縄・座間味島の砂浜にて

沖縄・座間味島の砂浜にて


まきたまりこ
魚マニアではないです。本当はふわふわの動物が好きです。