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時代の最先端を見る!!イタリアの農村にみる「アルベルゴ・ディフーゾ」という新しいまちづくりのチャレンジ!!2018年8月21日

■イタリアの新しいトレンド「アルベルゴ・ディフーゾ」■
「アルベルゴ・ディフーゾ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 
番組制作の仕事で、なんといっても面白いのは時代の最先端を見ることができる点です。
時代の最先端といっても、必ずしもハイテクや超未来都市!といったイメージばかりではありません。
今回、ロケで訪れたのはイタリア中東部の農村「セント•ステファノ・ディ・セッサニオ」。
ちょっと前までは過疎化していた集落です。

(写真:「セント•ステファノ・ディ・セッサニオ」の外観。宮崎駿監督のアニメに出てきそうな、まち並みです)
㈰セント・ステファノ全景@@
人口100人ちょっとのこの小さな集落に、「アルベルゴ・ディフーゾ」の1つがあります。
「アルベルゴ・ディフーゾ」はイタリア語。「アルベルゴ」がホテル、「ディフーゾ」が分散を意味します。
強いて訳せば「分散型ホテル」。英語を使わず、あえてイタリア語をこだわって使っている点が、
グローバリゼーション(アメリカンスタンダード)に対抗しようという、イタリア人の心意気を感じます。

㈪説明/アルベルゴ・ディーフーゾ
普通のホテルは垂直方向へ積み上げたイメージですが、「アルベルゴ・ディフーゾ」は、地域の空き家を利用して
部屋を貸す、水平方向へ広がるイメージの全く新しいホテルです。
集落の中心だったり、入口だったりに一般のホテルのロビーにあたる「レセプション」が設けられ、旅行者はそこで
鍵をもらい、町中にある“自分”の部屋に歩いて行くという仕組みです。
まるでその町に住んでいるように! イタリアでは過疎化のすすむ地方の、新しいまちづくりの手法として期待が
高まっています。

(写真:セント・ステファノ・ディ・セッサニオの街並み。左から2枚目の看板が出ているところが「レセプション」)
㈫街並み
■旅行者をホテルに囲い込むのではなく、地域に開放する仕組み■
旅行者は当然、食事や買い物を集落にあるレストランやお店で行うことになります。
結果として地域の商店がうるおい、地域内で小さな経済がまわります。
ホテルがレストランから土産物屋まで丸抱えし、ホテル経営者が一人だけもうけるのではなく、
ホテルの恩恵を地域に還元して、“地域とともに生きよう”という仕組みなのです。

㈬レストラン (写真:レストラン=左2枚=と部屋=右2枚=です。真ん中は、部屋に向かう階段。ほとんどが昔のままのたたずまい)


このまちのホテルを経営する会社「セクタンティオ」。
社長のダニエーレ・キルグレンさんの経営理念は「昔ながらの農村の良さを体験してもらい、文化の豊かさを感じてもらう」
です。食堂やバーの煤(すす)でさえ、「これが歴史だ!」とばかりに落とすことを認めない。
食堂で出される料理の基本方針は「できるだけ地域の食材を使い、できるだけ昔から食べられてきたモノを作る」です。
徹底的に地域の伝統と文化に敬意を示しているのです。

㈭私の部屋
私が借りた部屋は(↑)こんな感じ。階段を上がったところの一室。
夜、ローソクだけの昔ながらの雰囲気にすると、外の方が明るいくらいでした。
(昔を体験できるように、ローソクとマッチが用意されていました)
この集落は、ダニエーレ社長が「アルベルゴ・ディフーゾ」の取り組みを始める前の
1999年までは過疎化が進み、大部分が廃墟と化していました。
いまでは人が返ってきて、店を開いたり、自らの部屋を貸し、B&Bを始める人まで
出てきています。
住民たちは、今ではこの集落に住んでいることを“誇り”にしているといいます。

日本に目を向けると、人口は2015年の国勢調査で約1億2700万人。
国立人口問題研究所は2065年には8808万人に減少すると推計しています。
これは江戸時代の人口に近い規模です。地方のさらなる過疎化は避けられない状況です。
「伝統や文化では食っていけない」と古いモノを切り捨て、経済優先で突き進んできた日本。
しかし「伝統や文化」は、そこに住む人たちに“誇り”と地域に対する愛着を育みます。
イタリアの取り組みをみていると、“目先の利益”に飛びつくよりも、「伝統や文化」を大切にする
長期的なスパンに立った思考が、地域の発展には欠かせないということを思い知らされます。


㈮塔_修復
追伸:シンボルの塔は2009年にイタリアを襲ったラクイラ地震の影響で倒壊してしまい、現在も修復作業が続いていました。
加國 徹(かくに・とおる)