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ラフト初? 特撮&CGアニメ監督記
宇宙に浮かぶお椀型の巨大宇宙船。私が企画から脚本、演出を手がけた番組の主人公「無人恒星探査船ダンテ」である。時代は23世紀。「ダンテ」は太陽系以外の恒星へ自由に行き来できる能力を備えた船で、なおかつ人間のような心を持った人工知能が搭載されているという設定だ。この宇宙船が様々な天体を訪問する形で星の誕生から最期までを描くという番組を1年かけて制作した。

これはあくまでも宇宙をテーマにした科学番組であるが、ドラマとしても視聴に耐えうるものを目指した。ラフトの歴史を振り返っても、例の無いタイプの番組であったので、ほんの少しだが、その制作はどのようなものであったか記しておこうと思う。

この番組は科学技術振興機構が運営している科学専門チャンネル「サイエンスチャンネル」の2006年度の特集番組(44分1本)としてコンペにかけられたものだ。
テーマは「恒星の科学」。恒星とは太陽のように自ら光と熱を発する星のことで、そうした星の輝く仕組みや、誕生のプロセス等を「研究者のインタビューを使わずに」成立させること。というのがコンペの要目であった。
私が番組提案のプレゼンで強調した点は2つ。最新宇宙科学の知見をもとに、宇宙船で天体の目の前まで接近したらどんな世界が見えるのかを映像化すること。そして、主人公のロボット宇宙船が天体への理解を深めてゆく中で「人生」とはなにか考え、決断するという人間ドラマの要素を盛り込むことである。星にも生き物のような一生があり、そこに重ねた訳である。競合他社は相当数あったと聞いているが、幸いなことに落札に成功した。

企画まではこれでよかった。しかし、撮影するにはこの企画要素を脚本にしなくてはならない。脚本となると場面設定から台詞まで、具体的になるし、クライアントの要求も盛り込まなくてはならない。さらに撮影の手間や費用のことも加味しつつ、企画の持つ要素はきちんと反映させなければダメである。この脚本の執筆は実に孤独な作業で、番組の設定や世界観は自分の頭の中にしかないのだから1人でやるしかないのである。
SF仕立てで、ちょっと泣けるドラマにしようと欲張ったために、脚本の執筆が大変なプレッシャーだった。「ドラマ屋さんじゃないんだから、こんな企画にするんじゃなかった」と悔いても後の祭り、落札した以上はやらねばならないのである。
決して良くもない頭の中で想像を巡らし、台詞を連ねる…。ラストシーンを書く時には涙ぐみながらということもあった。「これはすばらしい!美しいストーリーが出来た」と書き終えても、翌日目を通すと最悪の駄作。まじめにコンペの落札者の座を降りようと思ったりもした。

この段階の苦労だけでもエピソードに事欠かないが、結局、撮影台本は書き直し7回目の台本で、2005年の大晦日の午後4時に書き始め、1月3日に書き上げた。4日には共同企画者であり、制作進行をつとめる丸本君に読んでもらい、意見を聞いて修正をはかった。そして5日の午前中に完成させた。
後日、アフレコ用にまた台本は書き直され、結局8回書き直した。そこまで直した脚本が良かったかどうかはご覧になった皆さんの印象でご判断いただくしかない。

これが23世紀の「無人恒星探査船ダンテ」


撮影は1月末から2月初めの1週間かけて行われた。公的機関である情報通信機構が映像研究用に運営している特撮用スタジオを格安で借りたのである。(現在は早稲田大学に移管)番組の性質上合成シーンは多く、このスタジオが撮影の拠点になった。
場所は埼玉県本庄市。群馬県との県境という遠隔地ではあるが、「スパイゾルゲ」をはじめ「日本沈没」など多くの映画がこのスタジオを使っている。
特撮スタジオというのは背景や演技の対象物を後から合成する都合上、青一色の変な空間である。CGアニメで後から合成して作るキャラクターと生身の役者が絡む部分では、印をつけただけの棒を相手にあたかもそこにキャラクターが居るかのように演じているだけで、実際は一人芝居である。
だから、役者の演技能力は重要で、ヒロインの少女時代を演じた向野澪さんは中学生ながら芸歴10年というベテランで、合成シーンを最も多くこなした。彼女はとても良くやってくれたと思う。

撮影は合成シーンばかりではなく、一般の建物をセットに見てたてて撮影することもあった。未来を舞台としているだけに、場所の選定が重要だったが、スタジオに隣接する早稲田大学の校舎が非常にモダンな作りで、かなりのシーンを校舎で撮影した。
段取りよくそろったのは偶然でもあったが、本庄市が映画やドラマの撮影を積極的に受け入れる窓口、いわゆる「フイルムコミッション」を設けていたことも大きい。ロケ場所の相談を持ちかけると、いろいろな施設や建物、撮影ポイントを教えてくれる。また、撮影許可や申請も素早くできる。こういう自治体は今、地方に増えている。

撮影の段階で印象深かったことがある。脚本を書いている時はきわめて孤独で、言い換えれば私的な作業だった。よくも悪くも、ストーリーは自分だけのものだった。ところが集団の中でダンテのことが話題になったり、ストーリーがスタッフ、キャストによって様々に解釈されたりすると少々寂しい気持ちになったのだ。番組にする以上、当然の成り行きだが、もはや1人だけのストーリーではなくなってしまうのである。
私はもう脚本家ではなく演出として現場で意見が割れたり、迷いが出た時には決断し、道を開かねばならない。こんどはドラマの流れる方向や目指す世界観を説明する役に徹しなければならないのである。
実写部分の撮影は大きな問題も無く、かなり順調に撮影が出来た。気合いと感情の入った演技もあり、「集中強化合宿in本庄」という一週間だった。 「実写パートに負けないCG、合成パートを作る」というわけで次の制作ステージに進む。

特撮スタジオで出演者に指示する私。あたりは青一色。床に座って台本を読み上げるのが丸本哲也君。CGキャラの声を現場で担当した



合成処理するとこのような場面になる。右が向野さんで、球状のキャラクターが人工知能「ダンテ」の球体端末。



撮影を終え、スタッフ&キャストの記念写真。宇宙服を着ているのはヒロインの渋谷亜希さん。左にいるのが私。ヘルメットを持っているのが、ダンテのデザインを手がけ、出演もしている番地章さん。左下は丸本君とともに制作進行をつとめた大串真紀さん。


今回、全てのCG制作と合成を受け持ってくれたのは旧知のCG制作会社「エフェクト」である。 社長の永峰智さんは10年以上前、NHKの伝説的宇宙番組「銀河宇宙オデッセイ」の制作に関わり、その後「エフェクト」を立ち上げた。以来、NHKの宇宙ものには必ず参加してきたが、最近NHKの宇宙番組が少なくなり、実力が発揮できず鬱々としたものがあったという。そこで、今回の番組ではコンペに提案する企画段階から参加してくれた。

実は44分ある番組時間でCGが関わっていないシーンはどこか探すのが大変なほど「CGだらけ」である。そのクオリティーは驚異的な高さで、お支払いできた金額の何倍に相当する労力を払ったのかと思うほどで、「足を向けては寝られない」とはこのことである。

やってみてわかったのは想像以上にCG制作は時間がかかるものだということである。CG制作は簡単にいうと「どんな絵」を「どんなカメラワークで」と「どんな照明をあて(これが大事)」、「どう動かすか」決めてゆく作業である。優れたCGクリエーターといっても、監督がこうした絵作りをなんにも考えていなければ、何も生まれてこない。
試しに作るというのは労力の無駄遣いでしかないので、やはり、絵コンテと動きの秒数を出すことが監督の仕事だ。実写の撮影を終えて再び、孤独な編集作業である。CG場面が続くところでは、想像でCGシーンの秒数を出し、「ダンテ急降下、星の卵に突入」などと、シーンに必要なことをテロップでうったダミーカットを作って編集した。
そして、CGクリエーターは脚本と、私の落書きのような絵を見ながら割り出した秒数を元に動きを作り、番組の前半から映像を埋めていく。
そうしてできたものを、毎週試写した。検討して直しをしつつ、新しいシーンのCGも作るという過酷な制作だった。実質的には2人のCGクリエーターが3ヶ月かかりきりで、目をつむっても「ダンテが見える」というくらい苛烈な状況の中で仕事をしてくださった。感謝してもしきれない。

そして天体現象のCGではきわめて重要な役割を担った方がいる。早稲田大学の坂井滋和教授である。坂井先生は長年NHKの宇宙番組で天体CGの制作を支えてきたCG界の大御所である。エフェクトの永峰さんと深い付き合いがあり、私の番組でも力を貸していただいた。坂井先生のすごいところは天体現象を映像化するために、シチュエーションごとに専用プログラムを作ることである。その一例として星が誕生するときに発生する双極分子流のCGなどは竜巻のような部分、中心から立ち上る光の柱、そして渦を巻く星間物質などを個別に作成し、専用ソフトで一斉に動かすのである。これは圧巻の一言だった。

この番組は架空の設定とはいえ科学番組なので、専門家の監修を受けている。
今回、監修を引き受けてくださったのは、国立天文台で星の誕生する過程を研究対象としている長谷川哲夫教授である。長谷川先生はかつて新聞に宇宙を旅する視点で星や銀河の成り立ちやしくみを解説するコラムを連載していたことがあり、マスコミを良く理解していらっしゃる方だった。番組の筋書きを決める段階からアドバイスをいただき、CGの色使い、天体の形状、動きについても非常に丁寧に指導をしていただいた。かなり細かい注文もあったが、エフェクトの皆さんの執念とも言えるがんばりもあって「この手の天体CGのスタンダードを築いた」とお墨付きをもらうまでに至った。
番組では細かい解説はしていないが、天体CGに描かれた動きや色は学術的に考証したもので、すぐれた内容に仕上がっている。今回の仕事で胸を張れるものの一つである。
長谷川先生は現在ALMA計画という巨大な電波望遠鏡群を南米に作る国際共同プロジェクトの責任者をなさっている。2012年に稼働する予定だが、その際は星の誕生の過程が、驚異的な映像として見えてくるという。大変楽しみだ。

博士役を演じる石丸謙二郎さんの前にハッブル宇宙望遠鏡の姿が映し出される



これは星が誕生する様子を映像化したもので、竜巻きのような物は双極分子流という。このシーンの映像化は坂井教授のプログラム無くしては実現できなかった



一人前の星になる前の若い星「Tタウリ型星」の映像化は世界的にもあまり例が無いと思う





オリオン大星雲に突入するダンテ。星雲内部をあたかも飛行しているように再現した


そしてCG制作とともに重要視したのが音楽である。
ドラマ仕立ての科学番組や教育番組というと結局、どっち付かずの内容で、リラックスするための芝居部分とお勉強の部分に分かれているのが常である。私が作ったものもその感は拭えない。コンペのお題が「科学番組」だから、科学かドラマかといえば科学をとるのだがドラマパートもなんとか人の心に届くものにしたいと思っていた。
ドラマシーンを効果的に演出し、印象深いものにするためには音楽が極めて重要と考えた。そこで今回は贅沢にも作曲家にサウンドトラックを依頼した。
引き受けてくださったのは瓜田幸治さん。元はゲーム会社で音楽クリエーターをなさっていた方だ。瓜田さんには宇宙ものの音楽がやりたくてしょうがないという夢があって、始めて打ち合わせしたとき独自の世界観を打ち出され、私も圧倒される情熱の持ち主だった。
まだ脚本が完全に固まりきっていない頃から曲の構想を練り、実写パートとダミーカットだらけの編集テープで秒数を割り出し、作曲を始められた。それでもできた音楽は映像にぴったりで、よくここまで考えが及ぶなあと感心してしまった。
オペラ歌手の方にも加わってもらい、レコーディングも行った。始めて音楽のレコーディングを見学したが、楽譜を見ながら進めるので。何をやっているのか全く理解できなかった。しかし、最終的に完成した音楽は本当にすばらしい。作品の世界を良く理解し、出過ぎず、控えめにしていながら主張しているという絶妙な音楽を実現して「プロだな」と深く感銘を受けた。その良さは聴いてくださいとしか言いようが無い。

そして、舞台がSF宇宙ものだけに効果音も重要な要素で、これは今回音楽レコーディングをしたスタジオのオーナーであり、シンセサイザープログラマーの超ベテランの池田穣さんが担当された。ロボットアニメの効果音もなさっていたそうで、「何でもいいからイメージを口でいってくれれば音にします」とプロの技を発揮してくださった。しかし、イメージを口でといわれても、爆発音のイメージを「チュドーン」などと擬音で発する私は端から見たら危ないおじさんでしかなく、人に見られたくない場面だった。録音のときに池田さんはMAスタジオにシンセを持ち込んで、ロケットの噴射音やらその場で出しまくっていた。楽器にこんな使い方があるのかと目から鱗であった。 CG班と音楽班は適材適所というのがうまく行ったと思う。幸運だった。

音楽レコーディングを行ったゼロスタジオ


こうして振り返ると、撮影以後、私はほかのクリエーターに意見するだけで、自分で何かを作るという状況はあまり無かったように見える。
だが最後に勝負をかけたものがある。それは主人公である「ダンテ」のアフレコである。
ダンテのキャラクターを確立し、主人公にふさわしい魅力、命を与えることだった。
ダンテは人の心を持った人工知能という設定で、ドラマの主役である。星の一生を理解するにつれ自分の一生の意味について悩み、最終的には星と運命をともにする。人魚姫が朝日を受けて消滅するように…。
ダンテに感情移入できなければ、全くしらけた話になり最悪の番組になってしまう。
まずは台詞の全取っ替えをした。これが先にも書いたが8回目の台本書き換えである。
撮影の段階までダンテの個性はかなり淡白で控えめだった。CG試写の際に自分でダンテの声を当てながら、キャラクターのつまらなさに気づいた。もっと感情豊かに振る舞い、自分の意見を主張し無いとダメになると思った。たとえば親に生意気な口をきいたり、でも寂しくなると弱気になったりするような人間らしさ、喜怒哀楽が無いとそれはキャラクターではないのである。
敬語的な台詞は全て無くし、生意気な男の子のイメージで書き直した。
「機械なんだから、違うんじゃないの?」と言われるかもしれないという不安はあった。今だから言えるが、書き直した最終台本はクライアントには事前に提出したが、スタッフには見せなかった。自信と不安が半々だったのだ。

ダンテの人工知能はやがて迎える死を悟り、自分が生きることの意味を考える。


そしてもう一つの重要課題はダンテの声を誰が演じるかである。
脚本を書いている時から候補は決めていた。声優の森永理科さんである。

TBSの深夜アニメに「ローゼンメイデン」という番組があり、そこに彼女が出ていた。このアニメはアンティークドールたちが宿命の対決を繰り広げるというもので、アニメファンの間でカルト的に盛り上がり、高い支持を得た番組だ。私もたまたま深夜にテレビで見たら、話の構成やキャラクターの描き方がかなりきちんとしていたので、毎週見るようになった。森永さんが演じるキャラクターは「蒼星石(そうせいせき)」というボーイッシュなドールでキャラクターの持つ中性的なイメージが彼女の声に良く出ていた。このキャラの設定もダンテに重なるところがあって、普段は優等生な振る舞いを見せているが、宿命に苦悩するシーンも多々あった。そんなキャラクターをうまく演じているところも決定要素になった。
ダンテの声は彼女をもってほかに無し。そう決めて録音に臨んだ。
通しでリハして森永さんに世界観と物語の流れを理解してもらった。結構台本を読み込んでいたようで、リハの段階でも結構いい感じだった。リハの後、ダンテの心情について話しあった。
森永さんは私に質問した「ダンテはサキ(ヒロイン)に恋をしてるんですか?」
恋と言っていいのか。親と子のような関係でもあるし、少し迷った。ここまできて始めて気づいたように思う。「演出ってここまで考えるんだよな」と。結論はダンテにとってサキは初恋の相手と位置付けた。場面ごとに感情の置き所を確認し、本番に臨んだ。
だから、ダンテの声の演出はうまく出来たと思っている。森永さんもこういうキャラクターに感じるものがあったのか、私の望む以上の能力を発揮してくれた。

ダンテのアフレコが私の演出として出来る最後の場となり、最後にやれるだけのことをやれたと思っている。ダンテは命のある存在になった。録音に同席したクライアントも非常に満足していた。
通しで試写をした後、特集番組にふさわしいクオリティーになったと評価をいただいた。
本当にいいスタッフと出演者に恵まれたと感謝し、晴れがましい気持ちだった。


番組は完成して納品したばかりで、なるべく多くの人に見てもらいたいと思う。サイエンスチャンネルで7月頃の放送予定と聞いている。


見てくれた社員から「おもしろい」「胸にジンときた」という言葉をもらえた。
これがどれだけうれしかったことか。
後から何を言う人が現れても耐えられると思った。正直、全く闇の中でこの番組を作った。企画、脚本、演出すべて自分だから逃げ場が無い。出来上がりが怖くてしょうがなかったのである。

ラフトは伝統的にドキュメンタリー番組の制作が多い会社だ。名作も多い。だが、私の作った番組は全く正反対で、宇宙に興味の無い人から見れば、出来の悪い子供番組と思われるだろう。まして何か立派な賞をとれるような番組でもない。
名作とは思っていないが、わずかでも人の心に残る番組を作れたのではないかと思っている。偉そうに書いてきたが、小学生の頃、学芸会の台本と演出に血道を上げた自分と40歳になった現在の自分も根っこは同じである。「おもしろい」そういってくださることを願い、ドラマ作りはへたくそだけど、自分にしかできない番組を作り出し、今後もチャレンジを続けるつもりだ。

森永理科さんと一緒に仕事をして、彼女の能力は高いと思いました。



サキとダンテの別れのシーン。主人公は一番最後に完成した。そして一番うまくいった。


 プロフィール
 堀 範行
1965年生まれ 京都府出身 複数の職業をへて現在にいたる。入社9年目。
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