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「第九」にまつわるここだけの話。2017年10月25日

Freude, schöner Götterfunken, Tochter aus Elysium…

知ってる人は知っている、これは「ベートーヴェン交響曲第九番ニ短調作品125」、
いわゆる「第九」で歌われる有名な歌詞です。
今回はこの「第九」にまつわる話、2017年3月に中継車で収録した、
「第九」演奏会について書いてみようと思います。

こんにちは。スタッフ通信初登場の宮下です。
私は、1990年10月からおよそ20年間、赤坂のテレビ局で
情報番組のスタッフとして生放送を担当していました。
この頃の私は、“発生”と呼ばれる事件・事故の取材を半ば専門としており、
阪神淡路大震災の取材を始めとして、一連のオウム事件やJR福知山線脱線事故、
秋田児童連続殺害事件などなど、この20年間は常に現場を渡り歩いてるような状態でした。

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とにかく現場に出ていることが多かったので、必然的に中継車のお世話になることが多く、
現場からの生中継や素材送り、また単に取材基地として利用したりと、中継車に親しんできました。

情報番組を卒業した時は、「もうこれで、中継車を見ることも無くなったか」と、
少し残念な思いもありましたが…ところがどっこい、その機会がまた巡ってきたのです。

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2010年4月、私の新しい仕事となったのが放送大学でした。

放送大学は、テレビやラジオ・インターネットで授業を視聴して学ぶ正規の通信制大学で、
全国におよそ9万人の学生がいます。
“学習センター”と呼ばれる拠点が全国にあり、学生はここでスクーリングや単位認定試験を受けたり、
また、サークル活動などのキャンパスライフを楽しんでいます。
この全国の学生に向けて、放送大学では15分の告知番組を制作しており、
年間の学びのスケジュールや、学ぶ仲間の情報を発信していますが、
私はこの告知番組を担当することになりました。

そして、5年後の2015年4月、この放送大学で新たな取り組みが始まりました。
南関東にある7つの学習センターが中心となり、学生などから合唱団を募り、
オーケストラの伴奏で第九の演奏会をやろうというものです。

「皆で第九を歌いたい!」…これだけならばよく聞く話です。
…が、放送大学ではこの第九演奏会を“教養教育”と位置付け、
なんと2年間をかけて歌唱練習だけではなく、音楽的な理論やドイツ語の発音、
また第九が生まれた時代背景などもじっくりと学んだ上で、演奏会を行いたい
というこだわりがありました。

この、演奏会までの2年間を取材し、更に晴れの舞台である演奏会も
きっちりと収録した上で45分の番組2本にまとめるということになりました。
合唱に参加しようという学生にとっても大きな挑戦なら、
取材をする私たちにとっても、長期にわたるプロジェクトとなりました。

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2本のうち1本は放送大学の講義として制作し、内容は演奏会が中心。
そしてもう1本は、合唱団の2年間をドキュメントとしてまとめると言うもので、
私はドキュメントの方を担当することになりました。

このドキュメントバージョンが狙うのは、一言で言うと合唱団の成長物語。
「第九を歌いたい!!」と集まった学生は、最終的に総勢250人を越える
大所帯になりましたが、実は不安だらけのスタートだったのです。

放送大学と言えば、高齢の学生が多いという印象がありますが、
「第九」合唱団もまさにその通り、60歳代と70歳代の学生が70%を
占めるという高齢者の集団で、最高齢の学生に至ってはなんと90歳を超えていました。
それだけではありません。合唱団の半数が、本格的な合唱に参加するのはこれが初めて…
と言う初心者の集団でもあったのです。

この高齢の初心者合唱団に、本当に「第九」が歌えるのか。
一流のソリスト、一流のオーケストラを招いて演奏会をやる以上、
合唱団が学芸会レベルではお話になりません。

練習を始めたばかりの頃は、指導の先生方も頭を抱えるくらいのへたくそだった
合唱団がどのように成長していくのか、日々の練習風景などを追う中で、
合唱団の成長を映像でどう表現するのかを常に考えました。

そして、2年後…

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2017年3月26日、演奏会当日、東京藝術大学・奏楽堂に大中継車と音声中継車が横付けされました。
「やはり、中継車のいる現場というのはテレビっぽくていいもんだいわい…」と、一人で悦に入っている中…
2年に及ぶ学びの末、憧れの舞台に立った合唱団は、見事に「第九」を歌い切りました。

2年前、あまりにへたくそだったおかげで、歌唱指導をする先生に
「どこかのちゃんとした合唱団に手伝ってもらわないと、演奏会は無理かも知れない」
とまで心配させた放送大学の第九合唱団。
この高齢で初心者の集団は、2年間の学びを経て大きく成長し、60歳や70歳を過ぎても、
人は成長出来るということを証明しました。

「第九と言うのは、そもそも感動するものなんです。」というのは、
今回、理論の分野で指導を担当した先生の言葉ですが…2年もの間、ずっと学生の
練習を見てきた私も、少しだけその意味が分かったような気がしました。

…もちろん、
これで今回の仕事が終わったワケでは無く、演奏会の後ほぼ3週間に渡って、
私は編集室に缶詰めになったことは言うまでもありません(笑)

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宮下義次 ちなみに…この時に収録した放送大学「第九」特別演奏会は、第一楽章から第四楽章までのフルバージョンが放送大学ホームページで視聴出来ますので、興味のある方はぜひご覧になってみてください。