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「新・月世界旅行」は長い旅(1)2008年6月1日


番組宣伝用ポスター

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4月からサイエンスチャンネルでアニメの新番組が放送されました。私が企画、脚本を担当した「Rocket! ぼくらを月につれてって! 新・月世界旅行」です。
内容は小学校高学年以上を対象にしたもので、ジュール・ヴェルヌのSF小説の登場人物や設定をベースに、将来の月世界旅行を描くアニメーション番組です。ヴェルヌの代表作「80日間世界一周」の登場人物であるフォッグ卿と妻のアウーダ、パスパルトゥーが19世紀から200年後の日本にタイムスリップして月へ旅行するストーリーです。
14分の5本シリーズなので、放送期間は短く、今年の4月から放送が始まり、6月で最終回を迎えました。今はサイエンスチャンネルのホームページから動画配信で見ることができます。

個人的にアニメ番組が好きなことと、小学校から高校まで漫画を描き続けてきたこともあり、アニメ番組の制作はやってみたいことの一つでした。千代田ラフトの番組制作で本格的なアニメーション番組はこれが初めてです。
かなり異色な番組でもありますので、その制作はどのようなものなのか記しておきたいと思います。

そもそもきっかけとなったのは、知人から紹介されたライター、幕田けいたさんから寄せられた企画でした。
幕田さんという人は日本ジュール・ヴェルヌ研究会に所属するほどのヴェルヌファンで、SFの古典ともいえるヴェルヌ作品の登場人物を使って現代日本の科学技術を紹介する番組を作りたいと申し出てきたのです。
ちょうど科学技術振興機構のサイエンスチャンネル番組募集にアニメ番組枠がありました。
ヴェルヌの作品の「月世界旅行」にあやかって「新月世界旅行」と題して「未来の月旅行」を描く内容にして応募することにしました。タイトルは景気づけに「Rocket!ぼくらを月につれてって」と頭に付け足して長くなってしまいましたが。
運がよく、この企画はめでたく採択され、私の初のアニメ番組制作はスタートすることになったのですが、これが苦労の始まりでもあったのです。

さて、アニメ番組はどのような段取りで作るのか?簡単に記すと以下の通りになります。

1シノプシス(筋書き)の検討
2台本作成と検討
3設定づくり(キャラクターデザインや背景画などの決定)
4絵コンテ打ち合わせ(実質的なアニメの設計図になります)
5作画と撮影(アニメーターたちがいっぱい絵を描いて、コンピュータで色を付け、動画ファイルにします)
6アフレコと効果音づくり、選曲
7編集(最終的なビデオパッケージ化)

とても大雑把ですが、段取りはこんな感じです。
制作を始めたのは2007年7月。来年の3月まで9カ月かけて14分(実質は10分)のアニメ番組を5本作り上げるスケジュールです。
アニメーション制作を引き受けてくれたのは杉並にある老舗のアニメ制作会社「トランス・アーツ」。少年ジャンプに連載されていた「テニスの王子様」のアニメーション制作を手がけたところいえば多くの人はわかると思います。

7月に入ってメインスタッフの3人が決まりました。アニメーション制作の全体を管理するアニメーションプロデューサーの菅野和人さん。登場人物をデザインし、キャラクターデザインと作画監督を務める成川多加志さん。そして番組全体の演出を行う監督の松澤建一さんです。みんな私より若い。成川さんと松澤さんは20代です。
「テニスの王子様」や「韋駄天翔(イダテンジャンプ)」などの制作で力をつけた若手クリエーターが選抜されたのでした。




「新・月世界旅行」の脚本 全5話分

「新・月世界旅行」の脚本 全5話分



エアロック部分のイメージ(作画・堀)

エアロック部分のイメージ(作画・堀)



シャトルの座席とシートベルト(作画・堀)

シャトルの座席とシートベルト(作画・堀)



普通のラフトの番組なら私は監督に当たるわけですが、今回は脚本担当者になります。アニメの絵は描けないので物語を作ることに徹するのです。それから2週間に一回の割合で、打ち合わせの席を設けて筋書きや脚本が検討されることになりました。
あらすじを構想したり、脚本を書くことは簡単ではありませんでしたが、正直楽しい作業です。
実写ではないので、好きな設定ができるからです。(もちろん縛りもあるわけですが)
その一方で台本打ち合わせは相当緊張しました。脚本を生業とするライターさんが普通手がける仕事を私が背伸びしてやってるわけですから、至らないところもあるでしょう。図に乗って好き勝手書いているところもあるので「きついダメだしあるかな」と不安になりました。また、低コストで制作が進むようにシーンをなるべく少なめにしようと書いたものの、結構膨れ上がり、予算的に厳しいといわれないかという不安もありました。
結果から言うと整合性のないことやキャラのカラーの合わないことは指摘を受け、頂いた意見は合点がゆくものばかりでしたので、台本に反映させました。
シーンの数の多さをあまり指摘されなかったのは助かりました。
思い起こすと、シノプシスの検討や台本打ち合わせは、テレビの仕事を始めたころ見たいな気持で打ち合わせに臨みました。40過ぎのいい年になると、人からダメ出しを受けて困り果てたり、うかつな失敗が初心を思い起こさせる良い刺激になります。はじめての仕事というのはいいものです。
そんなこんなで、8月末には脚本を完成させました。

脚本さえできれば、後は、「どんな絵になるのかな」と楽しみに待っていればよいかと思っていたら、それは甘かった。
打ち合わせの席で「主人公の家はどんな家でしょうか?部屋のイメージは?」と質問され、答えに窮してしまったのです。脚本なら「主人公の家」と書くだけで済むのですが、実際に絵にかくとなれば和風の平屋か、洋館か、近代的なマンションかでイメージは大きく変わるわけです。
監督の松澤さんからびっしりと書き込まれた質問リストが出され、建物や部屋、宇宙港やシャトル、小道具のイメージについて答えなくてはならなくなったのです。

アニメーションの制作では多くのスタッフが分業するため、意思統一が図れるよう詳細な設定資料がなくてはなりません。実はアニメーションの制作で一番時間をかける作業が「設定」なのです。
そもそもアニメーションは絵を1秒間に24枚入れ替えることで動きを作りだします。まさにパラパラ漫画の世界です。アニメの絵はコンピュータ処理も行われますが、ほとんどすべてアニメーターたちの手書きです。ほんの数秒のキャラクターの動きでも何時間もかけて人が書いているのです。アニメは一人では作れません。たくさんのアニメーターたちの力が必要なのです。
というわけで9月からはひたすら設定イメージの絵を描いたり、背景や室内の参考になりそうな写真を集めまくる作業が始まりました。

おかげさまで絵を描くのが上手になりました。



【後半へ続く→】

堀範行
1965年生まれ 入社12年目。複数の職業を経て現在に至る。